適正手続の保障 【専門記述・憲法・答案構成例】
憲法31条の意義
憲法31条では、国が国民に対して刑罰を課したり自由を奪う行為に対して、「法律の定める手続」によらなければならない旨を規定している。これを適正手続の保障という。
では、なぜ適正手続の保障を明文規定する必要があるのか。
それは、国家が刑罰を科すのは人権侵害の最たるものであり、国民の代表たる国会において、あらかじめ手続を法定しない限り処罰できないものとすることで、国民の人身の自由を守る必要があるためである。
憲法31条の具体的内容
では、適正手続の保障の具体的内容とは何か。
憲法31条は、国が刑罰等を科す場合にはその実体である「犯罪」と「刑罰」の法定(罪刑法定主義)、およびそれら犯罪の認定から刑罰を科すに至るまでの手続の法定を規定しているものと解する。なぜなら、手続の法定のみではその実体となる「犯罪」や「刑罰」が不適正なものとなる可能性があり、規定の実効性が失われるからである。
また、法定される実体および手続が「適正」であることも当然に必要となる。
「手続」の適正の具体的内容
憲法31条の規定に基づいて法定された手続の一例としては、刑事訴訟法第77条(勾留時の弁護人選任権等)や行政手続法第13条(不利益処分をしようとする場合の手続)が挙げられるが、第三者所有物没収事件において最高裁は「告知・聴聞の機会の保障」は憲法31条を直接の根拠として認められるとした。
これは、かかる機会を保障することで不当な人権侵害を未然に防ぐ趣旨であると解する。
憲法31条が行政手続に準用されるか
ところで、憲法31条は文言上「刑罰を科せられない」と規定されているが、刑事手続以外に行政手続にもその保障が及ぶのかが問題となる。
その点、今日の行政活動は拡大を続けており、国民の自由を奪う行政行為も多数存在していることから、同様の保障が及ぶものと解する。
一方で、行政手続は刑事手続と異なり行政目的に応じて多種多様であることから、常にその保障が及ぶ訳ではない。
行政手続への準用の判断基準、および判例
すなわち、行政処分により制限される権利の内容・程度、行政処分により達成しようとする公益の内容・程度、緊急性等を総合考慮して保障の有無が決定される。
この点、成田新法事件の判決においては、事前に告知聴聞の機会を与えずに工作物を使用禁止とした行政処分に対して、①空港の安全は公益的、人道的見地からその確保が極めて強く要請される、とし、②過激派が空港内に侵入して機器を破壊することが予見でき、緊急の必要性があったことから、合憲と判断した。
また、川崎民商事件は、税務署が令状なしで税務調査を実施することを拒否した被告人に対して検査拒否罪を理由に起訴した事案であるが、本件判決の中で、①所得税の公平確実な賦課徴収を図るという公益目的を実現するには、税務署による強制調査は必要不可欠である。とし、②もっぱら課税等に必要な資料の収集を目的とし、刑事責任追及のための資料の取得収集に直接結びつかない、ことを理由とし、合憲と判断した。
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